雪を運んできて河や井戸を埋めようとしても、折角の努力は水泡に帰すであろう。……これを「無功徳行」、あるいは「無所得行」という。……結果はどうであれ、今の瞬間に命を懸けてする姿は、見る者をして感動せしめるのだ。滝瓢水の「浜までは 海女も蓑着る 時雨かな」という句は、そういう人間のひとときの美しさを詩っていると思う。どうせ海に飛び込めば、全身ずぶ濡れになってしまうことは分かっている。にもかかわらずそこまでは、蓑を着て浜に向かおうとする海女たちに、作者は人間らしい慎ましさを見たのであろう。目的のためには手段を選ばぬ現代人にはない、美の要素が、そこにはある。
《原典・碧巌録/引用・西村惠信著『禅語に学ぶ 生き方。死に方。』(禅文化研究所)より》
*写真 雪に堪える烏の枕